本の紹介「死にゆく患者と、どう話すか」

発売された当初に読んだ本ですが、また読み直しました。
最初読んだのは発売された当初ですので、3-4年前ですが、
改めて読んで再度確認したことがたくさんあります。

我々獣医師も医師の方も、普段もつ悩みのなかに、
医療/獣医療という技術・知識をどうやって磨いていくか、ということがあると思いますが、
もう一つの大きな悩みどころは、
患者(飼い主)さんとのコミュニケーションがあると思います。
この2点は、きっと永遠のテーマですよね。

知識や技術の習得というのは、
様々な本があって、獣医でもある程度、体系的に学ぶことができるようになりましたが、
一方、このコミュニケーション論というのは、少なくとも獣医ではきちんと学ぶ機会がない。

目次

  1. この本には患者(獣医でいうと飼い主さん)とのコミュニケーションの極意が書かれています
  2. コミュニケーションは、理論に基づいて学ぶ必要があります
  3. 一度、この本を読んでおくと、コミュケーション論の重要さがわかり、意識がかわります

1. この本には患者(飼い主)さんとのコミュニケーションの極意が書かれています

おそらくこれを読まれる方は、獣医関連の方が多いと思いますが、
動物の診療をしていて、飼い主さんとのコミュニケーションは大きなテーマです。

とくに僕は大学という立場、犬のがんの臨床試験を多数実施していることもあり、
がんの動物をみることも多いです。
さらに内科治療ですので、外科のように切ってスパっと治せるわけでもなく、
終末期獣医療の提供のようなことも多々あります。

そうしたなかでどうやったら飼い主さんの気持ちに寄り添ってあげられるのであろうか、
どうやって飼い主さんと一緒にその子の最期を見届けてあげればいいのだろうか、
と考えることがよくあります。

もちろん獣医療としての技術的な面でできることはあるわけですが、
それ以外の面で考えなければならないことはたくさんあります。

この本では、著者である國頭秀夫先生が、
日本赤十字看護大学の学生たちにした講義の内容をまとめたものですが、
死にゆく患者(ひと)、つまり末期がんの患者さんとのコミュニケーションを題材に、
患者さんと医者とのコミュニケーションについて非常に様々な側面から語られています。

あくまでも医療者へのメッセージなのですが、
獣医療においても当てはまること、活かせることが非常にたくさんあるので、
読まれたことがない人は、ぜひ手にとっていただきたいと思います。

2. コミュニケーションは、理論に基づいて学ぶ必要があります

数年前から日本の獣医系大学では、
いわゆるポリクリ(臨床実習)が始まる前に『共用試験』が行われるようになりました。
共用試験の細かい内容などはここ(ここでは否定的な意見です)などを参考にしていただくとして、
共用試験には、
vetOSCE(実技試験)とvetCBT(コンピューターベースの知識の試験)があります。
vetOSCEは実技試験なので、犬の身体検査や産業動物などの模型を用いた試験があるのですが、
そのなかに医療面接試験があります。

上記のリンクサイトのように学生側から、
さらには教員側からも否定的な意見があるのはよくわかります。
でもそのなかで医療面接試験だけはとても意味があるのではないかと思うようになりました。

各大学において、これら試験に対する対策のような実習などが行われるのですが、
僕は、うちの大学で医療面接実習の講義を担当しています。
そのなかで学生たちにも飼い主さんとのコミュニケーションについてそのなかでお話します。
試験に受かるための実習と考えると、あまりにもばからしい実習なのですが、
実はこの医療面接実習こそ、獣医療におけるコミュニケーション論の授業の一つである
と考えれば、とても大事なのだと思います。

獣医療は、医療とは異なり、患者さん本人と話をするわけではないので、
飼い主さんを通じて、対象動物の状態を知ろうとするわけですが、
このなかで飼い主さんとのコミュニケーションの難しさ、というのをいろんな場面で感じます。

僕は自分でもどちらかというとコミュニケーションは得意な方だと思っていますが、
それでも常に悩んだり、学んだり、考えたりすることが多々あります。
我々の世代は、「こういうのは現場で先輩の背中をみて学べ」といわれた世代ですが、
そうはいってもなにかテクニックや理論があるのであれば、
それを学んでおいて損はないはず。

授業の中でも話をしますが、
たとえば飼い主さんに薬を先週お渡しした薬をきちんと飲ませられたかを聞くのに、
 「お薬を飲ませましたか?」
 「お薬を飲ませることができましたか?」
 「お薬を飲ませるの大変だったですよね?」
のどれが、一番飼い主さんから正しい答えを引き出すことができるか、ということを考えると自明です。

我々の目的は、
飼い主さんから正確な情報を引き出すことであって、
円滑なコミュニケーションをとることが一番重要なわけです。
それができなくて被害を被るのは、治療をうけるペットなのですよね。

こういうのは、
当たり前に自分なりの方法を見つけていく人もいれば、
試行錯誤しながら身につける人もいると思いますが、
理論があるのであれば、それを前もって学べた方が、
結局は病院に来る動物にとってそれ以上にいいことはありません。

3. 一度、この本を読んでおくと、コミュケーション論の重要さがわかり、意識がかわります

この本は、國頭先生の人柄もあってか、
患者さんとの対応についてその具体例などもたくさんとりいれて、
学生さんに講義されているものが、そのまま掲載されていて、
わかりやすい上、とても臨場感を感じながら読めすすめることができます。

とくになかで出てくる例には、
國頭先生が監修されている『白い巨塔』と『コード・ブルー』の場面もいくつかあります。
これらドラマのファンであれば、なお面白い。
あのシーンにはこういう意味があったのか、なんて感じです。

目次をあげておくと、

がんの告知ー何を伝えてはいけないか
インフォームドコンセントー医者というやっかいなパターナリズム的存在
「がんの告知」実践編
終末期におけるコミュニケーションー医療者と患者のアブない関係
DNRの限界とコミュニケーションーどうする、どう考える
信用と信頼のためのコミュニケーション・スキル
死にゆく患者と、どう話すか
明智先生と考えるがんのコミュニケーション

となっています。

医療者だけではなく、獣医療者もぜひご一読を。

ただこういう風に書いておきながら、
僕が一番苦労しているのは、学生とのコミュニケーションなのは内緒です。。。。。。