日本の大学教員の研究費はどこから来ているの? その仕組みを解説します。

大学教員(研究者)の研究費ってどこから来ているの?
いくらくらいもらっているの?

これもよく聞かれる質問ですし、
うちの研究室の学生もこうしたことは一切知らないと思いますので、
今回は、こういった疑問に答えます。

目次

  1. 大学からもらえる研究費は雀の涙です。
  2. 自分で外部から研究費を取得しないと、研究できません。
  3. 大学教員(研究者)の頭のなかは、つねに研究費のことでいっぱいです。

1. 大学からもらえる研究費は雀の涙です。

まず国立大学の予算は、
基本的には運営費交付金(国立大学が国からもらう予算、私学であれば私学助成金として国からきます)と学生の授業料、
あとは附属病院の収入などが元です。

このなかから我々教員の給料が払われますし、
大学の運営に必要な予算などもここから組まれます。
そのうちの一部が、各研究室や教員に毎年配分され、我々の学生の教育費兼研究費となります。
どの程度の額かは、大学によってまちまちだと思いますが、
教員一人当たり年間50万円もないところがほとんどだと思います。
噂ですが、ひどいところは10万円もないはずです。

これは学生の実習などに使う経費も全て含めてです。
研究室の電話代、授業での配布物のコピー代、研究室の椅子なども
すべてここから支払う必要があります。

我々のような生物(生命科学)系の場合しかわかりませんが、
以上のような年間の研究費で自由に研究するのは、ほぼ不可能です。

たとえば我々がよく使用するような試薬やプラスチック消耗品を例にとってみましょう。
試薬1瓶の値段といってもピンキリですが、
たとえば抗体などは高いものは1本10万円とかはとくに珍しくもありません。

また学会に所属して、年に1回の定例の集会に参加して発表するとなると
一つの学会の年会費に1万円程度、参加費に1-1.5万円程度、
さらに我々のような地方大学は、
どこで実施されるにも旅費が必要ですので、10万円弱は必要になります。
これに、学生が発表する場合、学生を連れて行く旅費やらが加わります。

また自分の研究成果をそれぞれ分野に合致した複数の学会で発表するため、
そうした費用だけで年間50万円は下らない、ということになります。

そういう状況ですので、
下記のように別に研究費を取得していないと、
この時点で完全赤字です(単純にいうと自腹ですね)。

2. 自分で外部から研究費を取得しないと、研究できません。

では我々はどうするかというと、
自分で研究費を取得する必要があります。

外部からの研究費は大きく分けて、
公的資金(競争的資金)と、
企業などとの共同研究費や奨学寄附金などがありますが、
通常公的資金の取得を目指すことになります。

公的資金は、競争的資金とも呼ばれますが、誰もがもらえるわけではありません。
科学研究費補助金(科研費)に代表されるように、
我々が申請書を提出し、
それを審査する人々(通常は専門家)がそれを読んで、
採択すべき課題かどうかを決定し、
採択されれば、研究費として配分される
、というものです。

有名なのは科研費ですが、
それ以外にも、様々な官公庁(我々の分野では農水省)が
こうした競争的資金の配分を行っています。

このなかで科研費以外は、
目的となるテーマが募集時点で絞られているものが多数を占めるため、
科研費が一番幅広く研究者が応募しやすい研究費の制度となります。
科研費も、それぞれ種目があり、それぞれ額は異なりますが、
一番大きいもので億を超えるものがありますが、
多くの教員が申し込んで現実的にねらうようなものは、
基盤研究A(2000-5000千万/3-5年)、基盤研究B(500-2000万/3-5年)、基盤研究C(500万以下/3-5年)などで、だいたい採択率は20-30%くらいだと思います。

またこのもらえる期間が終わったら、
基本的に延長ははないので、
それをもとに次の研究費をまた応募して採択されないと、その研究は終わりになります。

3. 大学教員(研究者)の頭のなかは、つねに研究費のことでいっぱいです。

このように自分で研究費をとって初めて自分のしたい研究ができるようになりますので、
大学教員は常に研究費のことを考えていないといけません
中小企業の社長さんのような感じです。
(ただ給料は大学から保証されているので、一緒にすると怒られるかもしれません)

大学教員は、「好きなことして給料もらって楽でいいねぇ」
という意見があるのもわかりますが、
一方で、好きな研究を続けようと思うと、
この研究費をとりつづけるというサイクルをうまく回せないと、悲惨です。

研究費のことはもっと書きたいこともいろいろありますが、
あまりにも長くなるので、今回はこれくらいで。

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Takuya Mizuno