犬のがん(悪性腫瘍)に対する免疫療法の真実についてわかりやすく解説します(飼い主さん向け)。
愛犬ががんになってしまった。
免疫療法って、副作用もないいい治療法とすすめられるけど、いったい何のこと?
インターネットでは「免疫力を上げるサプリ」がたくさんあるけど、どれを選んだらいいの?
こうした疑問は、自分のペットががんになったら一度はもつ疑問だと思います。
またいろんなところからいろんな情報が入ってくると思いますが、
なにがいったい正しい情報なのかわからなくなることもたくさんあると思います。
なぜならインターネット上では、こうした情報が氾濫しており、一見正しいのか正しくないのか見分けがつきません。
ここでは、犬猫の免疫をこれまでずっと研究してきて、
犬のがんの新しい治療法開発に10年以上も携わっている筆者が、
犬のがんの免疫療法の真実について飼い主さん向けにわかりやすく解説します。
(とても大事な内容なので、2回に分けて解説します。多少過激な書き方になっているかもしれませんが、
次の記事も含めてすべて最後まで読んでいただけると幸いです)
目次
- ペットががんになって、いきなり免疫療法をすすめられるのは、間違っています。
- 免疫療法は、標準療法ではありません
- 免疫療法というのは、広く使われる言葉ですが、ほとんどがインチキです。
1. ペットががんになって、いきなり免疫療法をすすめられるのは、間違っています
がんの治療にはさまざまな治療法がありますが、
オーソドックスな治療法は、3大療法とよばれる外科手術、放射線治療、抗がん剤治療です。
体にがんができてしまった場合は、
まずはどういった種類のがんで、どういうステージにあるのか、ということを最初に決める必要があり、
その上で初めてどういった治療法の選択肢があるのか、という話になります。
したがって病院では、まず、
がんの診断名、
病期ステージ、
そこから選択できる治療法、
その治療を実施した場合の予後(どの程度生きられるかなど)
について、質問してみてください。
そして最初に選択される治療法は、標準療法とよばれるものです。
標準療法とは、標準的であって優れた方法ではないというふうによく勘違いされますが、
実際は、多くの臨床試験の結果ともとに、現時点で最もよいと判断される治療法です。
したがってペットががんになって最初に進められる治療法は、
外科手術、放射線治療、抗がん剤治療などの3大療法、
もしくは場合によっては分子標的療法(どこかで解説します)
をもちいた標準療法ということになります。
しかし残念ながら、
標準療法が適応にならないほど進行してしまっている、
または過去に標準療法を実施したけれど再発してしまった、
標準療法ではもう対処できなくなった
などの場合にはどうするか。
こうした場合には、次の治療法としていくつかの選択肢がでてきます。
このなかですすめられることがあるのが免疫療法です。
なぜここで免疫療法か。
なぜ免疫療法は標準療法にはいっていないのか。
それは単純に動物のがんの治療で、
免疫療法で標準療法に入るほどその効果が確認されているものが存在しないからです。
2. 免疫療法は、標準療法ではありません
がんの治療でいう効果とは、
一般的には、それを投与することにより、
がんが小さくなった(もしくは大きくならない期間が長くなった)
がんが再発するまでの期間が長くなった
結果として長く生きられることができた
というようなことを指します。
一番わかりやすい効果は、
がんが目に見えて小さくなることですが、
通常、標準療法以外でそうなる可能性は非常に低いと考えられます。
もしそういう効果が多くの動物で認められる治療法であるなら、
その治療法は標準療法になってすでに教科書に載っていてどこの病院でも受けられるはずです。
逆にいうと、標準療法になっていない治療法は、
その効果がよくわかっていない、もしくは証明されていない、ということの裏返しなのです。
しかし実際には、有効な標準療法がなくなってしまったとしても、
目の前にいるがんになってしまったペットをどうにかしてあげたい、
と思うのが飼い主さんの気持ちだと思います。
ではそうした場合に何を選択するか、
ということででてくるのが『免疫療法』です。
3. 免疫療法というのは、広く使われる言葉ですが、ほとんどがインチキです
インチキというと語弊がありますが、効果があることが証明されていない、ということです。
免疫療法とはなにか?
がんの動物の体の免疫状態を調節するものはすべて免疫療法、ということになりますが、
具体的には、サプリのようなものから、
我々の研究室で取り組んでいる研究段階にあるようなものまでその種類は様々です。
このように非常に多くの種類があり、
かつそれぞれ効きそうな『雰囲気』で提案されているので、
多くの方が(これは医療において患者さんも)正しくないものや、
営利をむさぼるだけのようなものに手を出してしまう、
効果がほとんどわかっていないのに、なんとなく効きそうな言葉にのせられて試してしまう、
ということがおこっています。
試しに、グーグル検索で、
「犬 免疫療法」とか「犬 がん 免疫療法」とか検索してみてください。
たくさんの病院やたくさんのホームページが
「免疫療法」とか「免疫細胞療法」などをうたっていると思います。
そして多くは、副作用のない治療法で、QOL(生活の質)があがります、とか書かれていますよね。
でも残念ながら、「がんに対して治療効果がある」ときちんと書かれているものはないはずです。
本当に効果があるものは、我々は英語論文(第三者に評価される)という形にして発表しますが、
日本からそうした効果を発表している英語論文は皆無です。
つまり第三者から評価された確立した効果のあるとされる免疫療法は
獣医療において現状では存在しないということです。
そのほかインターネット上にも、
さまざまな「免疫力をあげる」をうたった「がんにいい」とされるサプリなどたくさんあります。
こうしたもののほとんどは高額で、かつ意味のないものばかりです。
こういうニュースも比較的新しいものです。
『「犬のがんに効く」未承認サプリ販売容疑、男を逮捕 』
本当に効果のある免疫療法は、
副作用がまったくない、ということはありません。
なぜならがんを小さくするほど体の免疫を調節するということは、
少なからず体の免疫の暴走を引き起こす可能性があるからです。
次回は、本当に効果のある免疫療法とは、
どういったものがあるのか、について書いてみようと思います。