犬のリンパ腫の新しい治療法、 抗CD20抗体を用いた治療法とは?

リンパ腫は犬で比較的多くみられる悪性腫瘍です。
今回、我々の研究室では、この犬のリンパ腫に対する新しい治療法を開発しました。
とはいっても、まだ市販されている薬ではなく、
臨床試験という形で今後実際のリンパ腫の犬において効果を確認していく段階です。

ただ、画期的な薬になる可能性を秘めています。
その基礎的なデータについて2020年7月10日にScientific Reportsに論文発表し、
それについて今回プレスリリースしましたので、
その補足もかねてここで少し解説しようと思います。

本記事の内容

  1. 犬のリンパ腫の新しい治療法とは
  2. 抗CD20抗体療法とは
  3. この臨床試験により、リンパ腫の犬の予後が良くなる可能性があるかも

この記事によって、犬のリンパ腫の新しい治療法について理解できます

1. 犬のリンパ腫の新しい治療法とは

犬のリンパ腫(については別途詳細を書こうと思います)は、
通常いくつかの抗がん剤を組み合わせて治療します。

犬のリンパ腫はいくつかの種類に分けられますが、
最も多いタイプの大細胞性B細胞性リンパ腫の場合、
だいたい2年生きられる子が20%程度です。

これまでにいろいろな抗がん剤をいろいろな形で使うことで
これを改善しようとみんなが頑張ってきましたが、結果は大きくはかわっていません。

一方、
人でも同様に、大細胞性B細胞性リンパ腫があり、
同じように抗がん剤治療が行われますが、抗がん剤治療に加えて、
抗CD20抗体(リツキシマブ、リツキサンⓇ)とよばれる抗体医薬を加えて使用するようになって、生存できる人の数が増えました。
しかし残念ながら、犬に対して人用の抗CD20抗体療法を使用することはできません。

2. 抗CD20抗体療法とは

抗CD20抗体療法とは、
B細胞性リンパ腫の細胞の表面にあるCD20という分子をターゲットとした抗体医薬を用いた治療法です。
CD20は人でも犬でもB細胞性リンパ腫の細胞表面に存在するため、
それに対する抗体医薬を投与すると、腫瘍細胞の細胞表面にくっつくことによって、
がん細胞は死にます。そうすることでがんの治療をおこないます。

またCD20分子は、
B細胞性リンパ腫のがん細胞だけではなく、
正常なB細胞(Bリンパ球)ももっているので、
副作用として正常なB細胞(Bリンパ球)が減少します。

これまで犬用に抗CD20抗体療法を開発しようと、
2005年くらいから様々な企業や研究室が頑張ってきたのですが、
実際に製品化され使用できるようになっているものは存在しません。
そこで我々の研究室で独自にこの犬用の抗CD20抗体を開発し、
それがきちんと働くことを試験管のなかやマウスを用いて確認し、
最終的に犬に投与できる形にしました。

今回の論文では、
上記の試験管のなかのデータやマウスのデータ、
さらにこの犬用の抗CD20抗体を健常ビーグル犬に投与した場合、
正常なB細胞が投与翌日にはほぼ0になることが確認できましたので、
犬の体内でもきちんと働くことが証明されました。

3. この臨床試験により、リンパ腫の犬の予後が良くなる可能性があるかも

山口大学動物医療センターでは、
すでに臨床試験を開始していますが、
今回の臨床試験のゴールは、
この開発した抗体医薬がB細胞性リンパ腫の犬に使った場合に、
なにかしらリンパ腫に対して効果がみられることを確認することです。

実際には、
 抗がん剤治療に加えてこの抗CD20抗体療法を用いることで、
 少しでも多くのB細胞性リンパ腫の犬が治療に反応すること(奏功率の向上)、
 治療に反応している期間を延ばすこと(無病再発期間の延長)、
 さらに長く生きられる子の数を増やすこと(全生存率の向上、全生存期間の延長)
が認められるかどうかを明らかにします。

この治療についてはまだ製剤として販売しているわけではないので、
どこの病院でも使用できるわけではありませんが、
国内の限られた複数の病院と提携して同じ治療が受けられますので、
ご興味のある飼い主様は、ご一報いただければと思います。