獣医大学教育の今―EAEVE国際認証をもった大学にいくべきか
獣医系大学関連で、最近「EAEVE」とか、「国際認証」とか耳にされることがあるかもしれません。
僕が大学生だった1990年代とはもちろん時代が違うので当然なのですが、
ここ10年くらいの間に、日本の獣医学教育はおおきくかわりました。
そのなかでここ最近の一番おおきな話題は、国際認証取得を目指す大学が増えてきている、ということです。
ここでは、「獣医の大学を目指しているけど、国際認証をとっている大学に行ったほうがいいの?」「国際認証をとっている大学に行くとなんか得があるの?」などの疑問に答えたいと思います。
目次
1. 獣医学教育の国際認証とは、第三者から認められた教育を行なっているという証です
2. 国際認証をうけた大学の獣医学教育は、やはり違うよ
3. 国際認証を受けた大学で教育を受けると、獣医師の幅広い職域に適した勉強ができますので、広い視点から自分の将来を考えることができます
1. 獣医学教育の国際認証とは、第三者から認められた教育を行なっているという証です
獣医学教育は医学部、歯学部、薬学部と同様6年間です。
大昔は、4年生の時代もありましたが、その後6年生に変更され、それがいまでも続いています。
日本には現在、私立大学が6つ(酪農、北里、麻布、日本、日本獣医生命科学、岡山理科)、
国立大学が10(帯広畜産、北海道、岩手、東京農工、東京、岐阜、鳥取、山口、宮崎、鹿児島)、
公立大学(大阪府立)が1つで、
全部で獣医系学部(学科)をもつのは17大学あります(ずっと16大学だったのですが数年前に世の中を騒がせて1つ増えましたよね)。
獣医学教育の目的の一つは、学生が獣医師免許をとることにありますので、
基本的に国家試験に必要な教科が中心にカリキュラムが組まれます。
そのため大学によって教科が大きく異なるわけではありません。
ただ、どういった科目に何時間かけるか、なにに重点をおくかなどは個々の大学に任されているため、
実際にはそれなりに教え方や何に重点をおいているか、などは結構ちがいます。
たとえば小動物(犬や猫)の教育や実習が中心の大学もあれば、
産業動物(牛や豚など)の教育や実習に重点をおいている大学もあります。
これまでこうした個々の大学がどういった教育を行なっているかについては、
誰もチェックしてきませんでしたので、
それぞれの大学が思い思いの方法でやってきたというのが事実です。
一方、欧米などには、教育システムの国際認証というものが存在します。
たとえば
米国/カナダには、AVMA(Council on Education of the American Veterinary Medical Association、https://www.avma.org)、
ヨーロッパにはEAEVE(European Association of Establishments for Veterinary Education , https://www.eaeve.org)、
UKには、 Royal College of Veterinary Surgeons (RCVS)
などそれぞれ独自の認証システムがあります。
これら認証評価を個々の大学が得ることによって、そこの大学の教育の質の保障がされているというわけです。つまり、そこの認証システムが求める教育レベルをきちんと保っているという認定になるわけです。
しかし残念ながら、アジアにはこうした独自の認証システムが存在しないため、
アジアの獣医系大学でこうした認証評価を受けたところはこれまでに存在しませんでした。
したがって、極端な話、我々が日本で〇〇獣医大学を出ました、といったところで、世界では「ふーん」なわけです。
そのため我々がきちんとした教育をしている大学である、ということを国際的に認めてもらうためには、
現状こうした海外の認証システムを利用せざるを得ず、
こうしたところに認めてもらうことで、
きちんとした教育をしているんだね、という証明になるわけです。
このように国際認証を取得しようとする動きは、医学部でももちろんあるのですが、
アジアの獣医系大学でもそれを求めるような大学が増えてきました。
最近では、韓国のソウル大学が米国の認証であるAVMAを見事取得しました。
そして日本でも、北海道大学と帯広畜産大学で合わせてVet North Japan, 鹿児島大学と山口大学でVet South Japanというそれぞれの組織として、このたび2019年12月に見事EAEVEの国際認証が得ることができました。
そして日本の他の獣医系大学でも、同じように国際認証を現在目指しているところが増えてきています。
2. 国際認証をうけた大学の獣医学教育は、やはり違うよ
国際認証取得大学とそうでない大学で違いはあるのか。
はっきりいって違います。
我々のようにEAEVEの国際認証をとったからといって、
卒業した学生が日本の獣医師免許を使って、即ヨーロッパで働けるのか、というと
残念ながらそうではありません。
ではなににメリットがあるのか。なぜそんな苦労してわざわざ認証を取る必要があったのか。
一番大きなメリットは、学生たちが受ける教育です。
EAEVEの国際認証で一番求められるものは、教育の質の保証です。
EAEVE国際認証では、犬猫だけではなく、牛、豚、鶏、馬など様々な動物について幅広く勉強するだけではなく、
獣医師の職業として重要な公衆衛生の仕事など、通称でDay One Skillと我々がよぶ、卒業したら獣医師としてすぐにでも様々な仕事ができるような知識とスキルを身につけることを目的としています。
そのため、個々の学生が実習中にみなければならない動物の数なども厳密に決められています。
とくに実習(ハンズオントレーニング)に関していうと、
我々の大学内でも以前に比べて、学生が手を動かしたりする時間が圧倒的に増えています。
また大学生活では、
学生たちがきちんとした教育を受けられているか、
また学生たちが授業をはじめとして、大学生活においてなにか改善点などを抱えたままにしていないか、
学生からの様々な要望をうけつけ、それらを実現するためのシステムも構築されています。
このように多くの点において、やっていることの見直し、改善、などいわゆるPDCAサイクルをまわして学生の教育を行うことが求められており、それらが実施できている学部、という認証でもあります。
そのため学生にとっては、とてもよい環境になっていることは間違いないです。
3. 国際認証を受けた大学で教育を受けると、獣医師の幅広い職域に適した勉強ができますので、広い視点から自分の将来を考えることができます
ヨーロッパで免許が使えないのであれば、意味ないじゃん。
そんなことはありません。
僕は、もともと小動物の獣医師になりたかったので、なにも迷うことなくそういう将来を考えたのですが、
今から考えるとずいぶんもったいない決め方をしたと思います。
そのころ獣医師の社会における職域の広さなんてまったく意識していませんでしたし、
そういうことを話してくれる先生もおらず、
もちろんDay One Skillをえるような教育もなかったため、
今の学生をみているととても羨ましく思います。
EAEVE認証で決められた卒業して獣医師として働くのに必要な最低限のスキルを
幅広く身につけるようなカリキュラムを体験することで、
いろんな職業の方と実際に接することになりますし、幅広くそれぞれ学生の間に携わることができます。
こうした経験は自身の将来を決める上でもとてもいい機会になると思います。
またたとえ、将来的に進んだ道から別の分野の獣医師としての道にすすむことになったとしても、
一度幅広く学んでおけば、なにも臆することはありません。
国際認証を受けた大学に行くことがすべてではありませんが、
以上のようなことを踏まえて、みなさん行きたい大学を選んでみてください。