犬のがん(悪性腫瘍)に対する免疫療法の真実についてわかりやすく解説します(飼い主さん向け)パート2
パート1では、免疫療法とよばれるもののほとんどがインチキです、という過激発言で終わりました。
このパート2では、
では、いったい本当に効果のある免疫療法っていったいなんのか知りたい、
という疑問に答えていこうと思います。
ここでは、犬猫の免疫をこれまでずっと研究してきて、
犬のがんの新しい治療法開発に10年以上も携わっている筆者が、
犬のがんの免疫療法の真実について飼い主さん向けにわかりやすく解説する2回目です。
目次
- 医療においてでさえ、効果がある免疫療法は限られたものしかありません
- 免疫チェックポイント分子阻害抗体療法は、もっとも成果をあげている治療法です。
- 犬の免疫チェックポイント分子阻害抗体療法はどうなっているの?
1. 医療においてでさえ、効果がある免疫療法は限られたものしかありません
免疫療法にまつわる問題は、医療においても大きな問題となっています。
つまり獣医療と同じように、インチキなものが世の中にはびこっています。
医療でも、こうした問題をだんだんとマスコミがとりあげるようになりました。
世界で認められている「免疫療法」が、日本で「インチキ」になる背景
末期患者が食い物に……超高額「がん免疫療法」戦慄の実態
あの週刊現代が「がんの免疫療法はインチキだ!!」で医師から大絶賛!!
またそうした治療に詳しい先生方が、下記のような本を出されたり、と少しずつ改善されようとしています。
ところでこの本は名著ですので、まだ読まれていない方はぜひ一読を。
こうした事情をしっていただくと、
医療よりも研究者が少なく、治療法がすすんでいない獣医療では
もっとできることが少ないというのはよく理解できると思います。
それではまず医療において効果があると考えられている免疫療法とはなんでしょうか。
BCG(膀胱内注入療法)
これは大昔に膀胱癌の治療薬として認可されている方法で、
承認された目的で使用する分には、今でも意味がある治療です。
ただこれを動物病院でもがんの治療に使っているところがありますが、
効果のほどは全くわかりませんので、ご注意を。
サイトカイン療法
サイトカインというのは、免疫を調節する液性因子の総称ですが、
このなかで、インターフェロンとよばれるもの、インターロイキン2(IL-2)とよばれるものは、
人でも一部のがんの治療薬として承認されています。
ただし動物ではがんの治療に承認されたものは存在しませんので、
ご注意を(海外には猫のIL-2製剤が1製品あります)。
免疫チェックポイント分子阻害抗体療法
これが昨今、免疫療法がよく効く、といわれる根拠となる治療法です。
京都大学の本庶佑先生が2018年にノーベル賞をとったことも記憶に新しいかもしれません。
これについては以下で述べます。
キメラ抗原受容体T (CAR-T)細胞療法
これは免疫細胞療法(免疫療法のなかでも免疫細胞をつかうもの)のカテゴリーですが、
あやしい免疫細胞療法が多いなか、
日本でもある種の白血病に承認されており、非常に強い治療効果が認められます。
残念ながら、動物ではまだ研究段階です。
それ以外の免疫細胞療法は、ほぼ効果の証拠がありません。
2. 免疫チェックポイント分子阻害抗体療法は、もっとも成果をあげている治療法です
さて、これが今回のテーマです。
この治療法は、本庶先生がノーベル賞をとるくらいなので、
めちゃくちゃ効果があると考えられている治療法です。
治療のこまかい説明についてはまた別途記事を書きますが、
ここではざっと理解していただきたいと思います。
この方法は、
体の免疫細胞がもつ免疫チェックポイント分子に対する薬剤(抗体医薬)を投与する治療法で、
簡単にいうと、本人の体の免疫機能をあげることによってがんを治療する、という方法です。
免疫チェックポイント分子に対する医薬品(抗体医薬)としては、
現在6種類のものが使われていますが(2020年8月現在)、
それぞれいろんながんの治療薬として現在認可されています。
オプジーボというものが一番有名ですが、
ヤーボイ、キイトルーダ、バベンチオ、テセントリク、イミフィンジで6種類です。
ただしどのがんにも同じように効くというわけではなく、
がんの種類によってその効果は様々で、
効果が高いものは50%程度の患者さんに効果がみられますが、
効果がない腫瘍に対してはほとんど効果がみられない、と言う状況です(ざっくり書いています)。
でも。。。。
これまで他の治療法ではもう助からない、といわれていたような患者さんのなかで、
この治療によってかなり長く生きることができるようになる方もでてきたわけですから、
そりゃーいい方法なわけです。
3. 犬の免疫チェックポイント分子阻害抗体療法はどうなっているの?
そうなると誰もが考えるのは、
犬の免疫チェックポイント分子阻害抗体療法はどうなっているの? ということですよね。
残念ながら、まず人の免疫チェックポイント阻害抗体医薬(上記の6つの薬)は使用できません。
単純に人用のものは犬には効かないからです。
むしろアレルギー反応を起こす可能性もあるので、百害あって一理なし、です。
そうなると犬用のものを作らないといけないわけですが、
残念ながら市販されていて利用できるものは、2020年8月現在世界的にも存在しません。
ただ世界の様々な場所で、
犬用の免疫チェックポイント阻害抗体医薬を開発しようとしており、
薬になる前の段階で、臨床試験という形で、
実際のがんの犬に対して投与することでどの程度の効果が得られるか、などについて検討されています。
日本国内では、
北海道大学の動物医療センターで実施されている抗イヌPD-L1抗体医薬、
われわれの研究室で作製された抗イヌPD-1抗体医薬(現在論文投稿中です)、
の2つの臨床試験が行われています。
この国内での状況については、別途記事にしようと思います。
いずれにしても、
近い将来、がんの犬に対しても、
人の免疫チェックポイント阻害抗体医薬と同じようなものができ、
多くのがんの犬を救うことができるようになるといいですね。