犬のがん(とくにメラノーマ)に今のところ一番効果がある免疫療法はこれだ!(飼い主さん向け)

先日の記事では、
免疫療法という言葉はとても幅広い言葉で、さまざまな治療法がふくまれていますが、
そのなかで有効と思われるものは現状はほとんどない、という残念なお話をしました。

ここでは、犬のがん(とくにメラノーマ(悪性黒色腫))に対しては、
今のところ一番効果が期待できそうな免疫療法である免疫チェックポイント分子に対する抗体療法について解説します。

ここでは、犬猫の免疫をこれまでずっと研究してきて
犬のがんの新しい治療法開発に10年以上も携わっている筆者が、
犬のがんの免疫療法の真実について飼い主さん向けにわかりやすく解説する3回目です。

もしこれまでの記事を読まれていないようでしたら、先にそちらからどうぞ。
1. 犬のがん(悪性腫瘍)に対する免疫療法の真実についてわかりやすく解説します(飼い主さん向け)。
2. 犬のがん(悪性腫瘍)に対する免疫療法の真実についてわかりやすく解説します(飼い主さん向け)パート2

目次

  1. 犬のメラノーマは免疫療法の効果が期待できるがんです
  2. 抗犬PD-1抗体療法を受けられるのは限られた施設のみです
  3. 抗犬PD-1抗体療法がうまくいくと、がんがなくなります

1. 犬のメラノーマは免疫療法の効果が期待できるがんです

がんといっても、様々な種類がありますし、
免疫療法といっても、先日の記事のとおり「怪しいもの」から「まともなもの」まで様々ですが、
犬の悪性黒色腫(メラノーマ)は、免疫療法が期待できるがんの一つです

メラノーマは、もともと人でも認められますが、
人のメラノーマは、免疫療法が効きやすいがんとして知られています。
人のメラノーマは、犬のように口などにできる場合は珍しく、
通常、紫外線が原因となるため、皮膚にできるものが多いので、
犬と全く同じとはいえません。

ただ人のメラノーマは、
古くから免疫療法の効果がみえやすいがんとして知られていました。

では犬ではどうでしょう。

海外においては、
犬のメラノーマの治療薬として認可されている薬として、
がんワクチン(オンセプトメラノーマⓇ)があります。

これは承認されているくらいなので、インチキな免疫療法ではなく、
ある一定の条件下での効果が証明されている免疫療法です(細かいことはここでは抜きにします)。

このがんワクチンも免疫療法の一種であり、この製剤の効果がみられる、ということは、
単純に免疫療法の効果がみえやすいがんである、ということになります。
(専門的にいうとそこまで単純ではないですが)

このがんワクチンは、犬で唯一承認されている免疫療法であり、
それ以外の犬のがんで承認されている免疫療法がないことからも、
メラノーマは、やはり免疫療法が効きやすい可能性が高いがんであるということもできると思います。(だからといって怪しい免疫療法が効果をもつことはないので注意!)

世界から遅れて10年以上、ようやく2023年に日本でもオンセプトメラノーマ(R)が承認され、
2024年から限られた病院ですが、使用できるようになりました。

2. 抗犬PD-1抗体療法を受けられるのは限られた施設のみです

今回のテーマの免疫チェックポイント分子に対する治療法がどういうものかは別途解説しますが、
簡単にいうと、免疫チェックポイント分子とよばれるタンパク質(CTLA-4, PD-1, PD-L1など)に対する抗体医薬を用いた治療法です。

たとえば医薬品では、
CTLA-4に対する抗体医薬はヤーボイⓇという製品名で、
PD-1に対する抗体医薬がオプジーボⓇやキイトルーダⓇという製品名で、
PD-L1に対する抗体医薬がバベンチオⓇ、テセントリクⓇ、イミフィンジⓇという製品名で売られています。

細かいことをいうと、それぞれ作用や効果も若干異なるのですが、
ここではざっくり、これらは体のリンパ球(白血球の一種)の免疫をあげて、がんをやっつける方法だとご理解ください。
同じような治療法でこんなにいろんな製品がでていることからも、この治療法がとても期待されている治療法であることが想像できると思います。

ただ残念ながら、これらは犬には使えません。
(効果がないだけではなく、副作用の可能性もあります)
したがって犬用のこうした薬を作る必要がありますが、
今のところ世界中でのどこにも市販されているものはありません
ただ米国ではMerck Animal Healthが2021年にUSDAで条件付き承認をとり、2023年から市販され使用できるようになっています。ただ価格がべらぼうに高いようです(2024年追記)

もちろん以前より犬用のこうした薬をつくろうという動きはあり、様々なところで作製されています。
そしてそれぞれのところで作製されたものが本当に効くものかどうかということについて現在あちこちで試験されている状況です。
つまり数年以内には世界のどこかで市販される可能性が高いと思います。

アメリカでは少なくとも2箇所において、犬のこうした薬が作製されており、
現在臨床試験が行われていると聞きます(正確な情報はわかりません)。

日本においては、北海道大学と我々のところ(山口大学)の2箇所が、
それぞれ独自のものを作製してもっています。
さらに北海道大学でも我々のところでも、それらが犬のがんに対して効果をもつかどうかという臨床試験を現在実施中です。
北海道大学では抗犬PD-L1抗体を用いた臨床試験我々のところでは抗犬PD-1抗体を用いた臨床試験を実施しています。

えー、山口と北海道かー、遠すぎる、行けないよ、そんな端っこまで!
という方もいらっしゃるでしょう。

これまでこの治療の臨床試験に参加いただくために、
我々のところにもかなり遠くからお越しになられている方もいらっしゃいますが、
本当に効果があるものかどうかを確認して、実際に薬として誰もが使えるようにするためには(以前の記事もご参照ください)、
より多くの方に臨床試験にご参加いただいて結果を明らかにする必要があります。

そのため我々のところの臨床試験については、
現在、関東圏と関西圏の連携している病院で使用できるようになっています。

(詳細はお気軽に水野までお問い合わせください)
したがって山口までお越しいただかなくても、参加できる形になっています。

3. 抗犬PD-1抗体療法がうまく効くと、がんがなくなります

さて、では効果はどうでしょう?

免疫チェックポイント分子に対する治療法は、
発見者である本庶先生がノーベル賞をとったときに夢の治療法のような書かれ方をしましたが、確かに夢の治療法かもしれません。

なぜなら他の既存の薬が一切効かなくなったようながん患者さんのなかで、
この薬によって治ってしまったような患者さんもたくさんいます。

そういう意味では、一部の患者さんにとっては間違いなく夢の薬です。
ただ一方で、この治療法が効かない患者さんもまだまだたくさんいます
細かいことはおいておいて、がんの種類によってこの治療法の効果はかなり異なります。
つまり、効きにくいがんでは、全く効果がないことも多々あります。

では犬ではどうでしょう?

まず海外で行われている臨床試験のデータはまだ全く公表されていませんので不明です。
Merck Animal Healthのデータですと、犬の口腔内メラノーマと肥満細胞腫というがんに対して使用した場合、一定の効果がみられています。厳密にはそれらの子たちがどの程度進行していたのか、どの程度の大きさの腫瘍に使用したのかなどは不明です。

我々のところのデータも現在論文投稿中なので、オープンにできません(半年以内には掲載できると思います)。 我々のところも3本論文していますし、プレスリリースもだしていますので、ココからご覧ください。
したがって、現在オープンになっているものは、北海道大学のチームが論文にしたもののみです。詳しくについては、このリンク先をみてください。

我々のところでは、これまでおもに犬の口腔内メラノーマ(プラス他の腫瘍もボチボチ)を対象に臨床試験を実施してきました。
基本的には、既存の治療法が効かなくなった(つまり他の治療法がもうない)子を対象にしています。
その子たちに、我々のところの抗犬PD-1抗体療法を行うことで、実際に腫瘍が小さくなるか、長生きできるようになるのか、ということをみる試験です。

結果については、上述したように細かいところはまだ書けないのですが、
一部の限られた子については、腫瘍が実際に小さくなったり、肺に転移があるにもかかわらず長期間生存できている子もいます
したがって、みんなに効くわけではないけど、
現状ではステージがすすんだ口腔内メラノーマの子に対しては、
一番可能性がある治療ではないかと思います。

そして、今後は口腔内メラノーマ以外のがんの犬に対しても、この臨床試験の幅を広げていきます。
臨床試験への組み入れの基準はありますが、がんの種類についてはメラノーマ以外でも可能です。

いずれにしても、
どこかが作った犬のこうした治療薬が早く市販されて、
多くのがんの犬が救われる日が来ることを心より願います。

投稿者プロフィール

Takuya Mizuno