日本で動物の新しい薬の開発はできないのか?
今日はちょっとマニアックな話です。
自分のペットが病気になって、
「もうほかには既存の治療法がないんです」って言われたらどうしますか?
でも実際には、海外には治療法があって、日本にいるからそれを受けられないだけだったら?
こういうことは実際にあります。
なぜこういうことが生じるのか、
どうしたらこういう状況を解決できるのか、
日本から動物用の新薬をリリースすることを夢みて、
5年以上にわたり自分の研究の成果物をもって毎日コツコツ活動しています。
そんな私が上記の疑問について考えてみたいと思います(少しかたい話ですが、最後までお読みいただければ幸いです)。
愚痴っぽくなったらすいません。。。。
イントロ
ここ10年くらいで小動物獣医療で発売された治療薬で画期的なものってなにを思いつきますか?
最近では、アレルミューンⓇ、サイトポイントⓇ、アポキルⓇ、パラディアⓇ、などですよね。
実際に使われている飼い主さんもたくさんいらっしゃると思いますが、
パラディアⓇはがんの薬、それ以外はすべてアレルギーの治療薬です。
アレルミューンⓇだけが日本製(日本全薬工業株式会社)で、残りの3つはすべて外国製(ゾエティス社)です。
ゾエティス社製の3つはすべて海外で製品化されたものを、数年たってからゾエティスジャパンが日本で販売している薬です。
つまり画期的な新薬の多くは、海外で最初に製品化され、
それをすぐには日本では使えず、時間がたってから日本で使えるようになる、ということです。
ということは日本のペットはその恩恵をこうむるのに「時間がかかる=損をしている」ということです。
そのタイムラグが5年だったらどうしますか?
犬の平均寿命は大型犬などでは10年くらいとすると、
あと5年早ければ、うちの子の治療に間に合った、なんてことがあるわけです。
なかには、海外で承認はされていて使うことができるのに、日本では使うことさえできない薬もあります。
なぜそういうことが起こるのでしょうか。おもに理由は3つです。
- 日本の研究者(僕ら)や製薬会社がだらしない
- ペットの数がもともと少ない
- 日本には臨床研究をする土壌ができていない
1. 日本の研究者(僕ら)や製薬会社がだらしない
研究者がだらしない、というのは新薬につながるような研究がなされていない、ということですが、
一つには、獣医大学をふくめそうした研究者の数が少ないということです。
またもう一つには、その少ない研究者たちでさえ、
診療で使えるような薬を本気で開発しようとするような研究を行っている人は少ない、といいかえることもできます(失礼!!)。
一方、海外の薬の例をみると、多くは動物用医薬品製造会社が様々な方法で開発したものですので、
一概に研究者だけの問題でもなく、日本の動物用医薬品製造会社がだらしないのかもしれません(いいすぎてごめんなさい)。
なぜか。やはり体力の問題が大きいと思います。
動物薬の市場は、医薬品とくらべると(当たり前ですが)とても小さく、
人体薬の製薬会社は、ばからしくて動物薬に参入することはならず、
動物用医薬品製造会社は、小さい市場のために自社をあげてなにかを開発する体力がない、ということになります。
そうなると日本の動物用医薬品製造会社はなにをやるかというと
海外の製品を輸入して日本で売る方が効率がいいので、
悪くいうと、輸入代理店のような仕事が主体になるわけです。
そうはいっても、日本の動物用医薬品製造会社も以前はもっと自社製品をつくっていたのですが、
最近ではそういうところもほとんどなくなりました。
2. ペットの数がもともと少ない
動物薬の市場が医薬品の市場と比較して小さいのは仕方がないとして、
動物薬の市場だけをみても、日本と海外では大きな違いがあります。
ペットの数を考えてみます。
2019年のペットフード協会の調査では、日本の飼育頭数は、犬 880万頭、猫 980万頭で、
2017年の米国の飼育頭数は、犬 9,000万頭、猫 9,400万頭です。
それぞれ約10倍ずつ!!!!!!!
そりゃー、市場が違いますよね。
したがってよっぽどみんなが使う売れる薬(予防薬とかですかねぇ)を作らないと、
日本の市場だけでは全く採算がとれない、ということになります。
そうなると、海外のなにかを輸入して売った方が、よほど効率がいい、ということになります。
もしくは犬猫の薬をあきらめて、開発するにも食糧生産動物(牛や豚、鶏など)の薬の方が需要がありますよね。
だからといって、日本の犬猫の数をいきなり増やすなんてことはできないので、
目指すべきは、日本から世界の市場を狙った製品を作る、ということしかないわけです。
3. 日本には臨床研究をする土壌ができていない
では仮に、僕ら日本の研究者がなにか新薬のもとになるようなものを運よく作れた(発見できた)としましょう。
それを薬にするためには、様々な手続きがあります。
まずは、たとえば大学の動物医療センターなどで、
その薬が病気の犬に対して効果をもつかどうかを、獣医師主導臨床試験という形で確認します。
(もちろんその前にその薬が効果を持つ可能性があるかどうか、副作用などはないかなどは
実験動物などで確認したりする必要はあります)
その獣医師主導臨床試験である程度効果が認められて、
そのあと農水省に治験届を提出して、実際に薬として販売するような形で治験を行います。
この治験では、本当に効果があるかどうかを、獣医師主導臨床試験よりきちんとした形で試験を行うことになります。
こうした獣医師主導臨床試験や治験をすみやかに進めるためには、
それに参加してくれる病気の動物たちがたくさんいないといけないのですが、
もともと米国と比較して10分の1程度の数のペットしかいない上、
日本人の性質(?)としてなのか、
こうした得体のしれない(実際にはそうでもないのですが)試験に
自分の動物を参加させたくない、という方もたくさんいらっしゃいます。
ただこうした試験をたくさん、そして速やかに実施していくことが、
日本にいる動物たちを将来的にたくさん救える一つの方法なのです。
もちろん飼い主さんにとっては、未来の動物より目の前の自分の動物の方が大事なのですが、
ある程度効果が望める可能性があるものをこうした臨床試験で用いているので、
「モルモットにされる(言葉が古い?)」というほど試験的なものではないのですが、
日本人のイメージとしてはあまり受容されないこともまあまああるのかもしれません。
次は、具体的にどうしていけばいいのか、などについて近いうちに書きたいと思います。