犬猫のがんに対する抗がん剤治療は必ずしも悪ではありません(飼い主さん向け)

・犬猫の抗がん剤治療はどういうものか知りたい
・自分の動物に受けさせるべきかどうか
・費用や副作用が心配だ

こういった疑問に答えます

本記事の内容

  1. 犬猫の抗がん剤治療は、最初から否定するべきではありません
  2. 治療をうけさせるべきときの見分け方を解説します
  3. 費用や副作用について簡単に伝えます。

この記事を書いている僕は、
動物の抗がん剤治療を診療日には使わない日はないくらい使っていますし、新しいがんの治療薬の研究もやっています。

こういった僕が解説していきます。

1. 犬猫の抗がん剤治療は、最初から否定するべきではありません

犬猫に抗がん剤治療なんてやらない、という風に最初から否定するべきではありません。なぜならそれによってその子とまだまだ一緒にいられる時間が長くなる可能性があるからです。

まず抗がん剤が必要にあるときはどういうときか考えてみましょう。

体のどこかにがんができた場合、
がんが一箇所にだけあるのであれば、外科手術でそこだけ取りきったり、放射線治療でそこだけ叩ききるのが一番いい治療法になりますが、たとえばすでにどこかに転移してしまっている場合や、血液のがん(リンパ腫や白血病など)などのように全身に広がっていると考えられる場合は、抗がん剤治療が必要になります。

また外科手術のあと、目に見えない程度の残ったがん細胞をなるべく体から減らすという意味で、アジュバント治療としても使われたりします。

抗がん剤というとあまりよいイメージがありません。

たしかに毒のあるものを体に入れて、がん細胞をやっつける方法なので、気軽に使うべき治療ではありません。他の治療とちがって、試しにやってみようというようなものでもありません
しっかりとした診断の上に、使うメリットが使わないメリットより多くあるときに使うべきです。

たとえば、
抗がん剤治療をやってみるけどやらないより1ヶ月しか寿命が延びないかもしれません、というようなときは、慎重に考えた方がいいですよね。人間とちがって寿命が短い犬猫の場合、1ヶ月でも寿命が延びるのであればなんとかしてあげたい、というお考えの飼い主さんもいらっしゃれば、1ヶ月くらいのために辛い思い(本当に辛いかどうかは後述)をさせたくない、という考えもあると思います。どちらも一理あります。

そうした様々なことを考えた上で実施するべき治療ですが、最初から絶対やらないというふうに決めつけるべきものでもありません

2. 治療をうけさせるべきときの見分け方を解説します

じゃあどういうときに抗がん剤をやるべきか、については、担当の獣医さんとよく相談することが必要ですが、以下のことを考えてみてください。

ポイントは、

その抗がん剤は何のためにやるのか
  がんの完治(に近い状態)を目指すのか、
  現状維持くらいの効果しか望めないのか、
  ほとんど効果の可能性がないのに使用するのか、
その抗がん剤をやることによって、なにが得られるのか、メリットはなにか?
それをやるとどの程度寿命がかわるのか
それをやるとどういうデメリットがあるのか
それをやらないとどういう先が予想されるのか

以上のようなことをしっかり獣医さんから説明してもらってから、抗がん剤治療を開始した方がいいと思います。

同じがんでも、目的や状況に応じて、抗がん剤の使い方も考える必要があります
飼い主さんがどういうことを望まれているのか、その子をどうしてあげたいかによっても、抗がん剤治療を考える必要があります。

また抗がん剤は、めちゃくちゃたくさんの種類があります。
それぞれ働き方、副作用、使い方、全くことなりますので、
そうしたことを理解した獣医師が使うべきであり、片手間に実施するような治療ではないので、そういった治療に慣れている動物病院で治療してもらうべきです。

たくさんの種類がある抗がん剤ですが、注射薬もあれば、飲み薬もあります
また使う頻度も、連続で使用するものもあれば、何週間に1回という形で使うものもありますので、それによって動物病院に来る頻度もかわってきます
もちろん場合によっては、入院して実施する必要があるような場合もあります。

3. 費用や副作用について簡単に伝えます。

抗がん剤で、飼い主さんが一番心配なのは費用と副作用だと思います。それらについて簡単に解説します。

それぞれの抗がん剤がそれぞれ違った副作用をもちますので、一概にはいえませんが、
一般的には、食欲がなくなったり元気がなくなったりというような軽い副作用から、
ひどいものでは白血球が減ってしまって感染しやすくなってしまったり、ひどい吐き気がでるものまで様々です。

ただ抗がん剤といわれて、一般の方がイメージをもつような、
ゲロゲロ吐いて、ひどい下痢してぐったりする、というような副作用が出ることは一般的には少ないと考えていいと思います。その理由の一つは、人間が抗がん剤を使う場合、その先何十年も生きられるように完治を目指してできるだけ多くの用量で抗がん剤を使うのに対し、犬猫の場合は、それに比べると少し少なめの用量で使用することが多いです。

僕らが目指すのは、抗がん剤で体を弱らせることではなく
メリット(がんを小さくする、少しでも長く生きられる)を、
デメリット(副作用や費用などの負担)より大きくできるような使い方をすること
です。

費用も飼い主さんがご心配されるもう一つのファクターです。
抗がん剤治療は、決して安い治療ではありません。

抗がん剤自体も、種類がたくさんあるので、個々の薬剤によって値段が全く違います
もちろん一般的に、体重の大きい子は、小さいこと比較すると使用する薬剤の量も増えますので、その分経済的な負担は増えることになります。

また抗がん剤治療をする場合には、毎回体の状況を把握する、つまり抗癌剤を使える状態かどうかのチェックや抗がん剤による副作用がでていないかなどのチェッックのために血液検査やその他の検査を実施する必要がありますし、場合によっては、抗がん剤が効いているかどうかの判断などに必要に応じて画像検査などを実施する必要もあります。こうしたものも抗がん剤自体の費用に上乗せされることになりますので、そのあたりも担当獣医さんに確認しておいてもいいと思います。

抗がん剤治療をするかどうかについて、こうしたことすべてが飼い主さんにとって重要な要素だと思いますので、治療を始める前に担当獣医師の方に率直にご相談されてください

結局大事なことは、
通院されている動物病院の獣医の先生とよく話し合う必要があるということ
です。
抗がん剤治療は決して簡単に始めるべきものでもないですし、よく考えて決断するものです。
ただ、最初から使わないという選択肢だけしかないのはもったいないですので、
以上のことをよく読んでいただいた上で、自分の子にたいしてどうしてあげたいか、ということをふまえて動物病院の先生とよくご相談されてください。

投稿者プロフィール

Takuya Mizuno