共同獣医学部と獣医学部(学科)の違いをまとめます

・共同獣医、獣医って言葉を聞くけど、なにが違うのだろう
・共同獣医のなにがいいのだろう
・どっちを選ぶのがいいのだろう

こういった疑問に答えます

本記事の内容

1. 共同獣医という言葉が生まれた経緯がわかります
2. 共同獣医のいいところを紹介します

この記事を書いている僕ですが、
  日本で初めてできて獣医の共同教育行っている山口大学共同獣医学部の教員です
  共同獣医学部ができるようになった経緯をそのなかでずって見てきました

こういった僕が解説していきます。

1. 共同獣医という言葉が生まれた経緯がわかります

昨今、獣医大学をとりまく環境は、教育を中心にかなりかわっています。
そのなかで生まれてきた言葉が、共同獣医学部、共同教育課程などという言葉です。
共同〇〇というのを大学ではあまり聞きませんが、
言葉通り2つの大学の学科が一緒に学部を作るのが共同学部で、学部までは作らないけど教育だけ一緒にやるのが、共同教育課程です。

まず大学には学部があってその下に学科が存在します。
通常複数の学科が集まって、学部を作っているわけです。
もともと我々の山口大学共同獣医学部も、古くは、山口大学農学部獣医学科でした。

現在、日本には17の獣医系の学部や学科をもった大学が存在します。
国立大学法人の10校、公立の1校、私立の6校です。

それぞれ学生の定員、教員数はまちまちですが、
国公立の場合、1学年あたり30-40名私立大学では1学年80名 – 140名です。

このなかで私立大学の多くは、大学の下にそのまま獣医系があるところが多いのに気づかれると思います。
私立大学のように、学生数がある程度多いということは教員数もそれなりにいますので、
獣医が一つの学部として存在しているところがは多いのですが、
一方、国公立をみてください。
単独で、獣医学部として存在しているのは北海道大学のみです(定員40名なのにすごい!)。

そのほかのほとんどは、農学部の下に他の様々な学科とともに獣医学科として存在しています。
それは当然といえば当然で、学生の数が30-40名で、教員の数も30人以下ですので、
それだけで学部というのは難しく、通常農学部の下になるわけです。


ではなぜ学部の方がいいのか?

これは学部であることがいいというより、学部になるくらい十分な教員の数をもつ、ということが
学生に対して十分な教育をするためには、必要であるということです。
獣医は6年間教育があり、獣医師になるために、非常に多くの科目を習う必要があります。
それぞれを専門の教員でまかなうためには、それに十分な教員を確保することがとても重要なわけです。

もう一つは、組織図を見ていただければわかるように、
学部になるということは、その上は直接大学の執行部になるのに対し、
学科であれば、学部を介してその上に大学執行部になりますのでいろいろな意思決定権も小さくなるわけです。

2. 共同獣医学部のいいところを紹介します

上記のように、2つの獣医学科が共同で教育を一緒にやる共同教育課程のシステムの大学は最近増えましたが、
共同獣医学部(二つの大学で一つの学部を作っている)は山口大学と鹿児島大学だけです。

カリキュラムも学部の運営も2大学で共通です

日本で唯一の共同獣医学部である山口大学と鹿児島大学は、そのほかの大学の共同教育課程とは異なり、
教育だけではなく学部運営も共同で行っています。
つまり、学生のカリキュラムが一緒なのはもちろん、さまざまな運営についても両大学で一緒に会議をもち協議をもちすすめる、という風に、違う大学でありながら、一つの学部として運営しています。

多くの教員がいるので、専門の授業を聴けます

山口大、鹿児島大、それぞれ学生は30名ずつです。
それに対して、教員数は、山口大、鹿児島大それぞれ40名以上ずつ存在します。
それぞれの大学だけで考えても、学生30名に対して教員40名ですので、
一般的な日本の大学から考えると異常だということがわかりますが、さらにこの人数で行われる授業を考えてみてください。学生は、約80名の教員から授業を受けられるということです。
つまり、より専門の先生から専門の内容を聞くことができる、というのはとてもありがたいことです。

たとえば、僕が赴任した15年前の頃は、共同獣医学部でもなく山口大学農学部獣医学科であったため、教員数も30名くらいでした。そのため、僕は小動物の内科専門にもかかわらず、牛の内科なども一緒に教えなくてはならない、というような状況だったわけです。これは当たり前の話で、教員の数が少なければ、それぞれの教員が足りない分をお互いにかばいあって専門ではない範囲でも授業をするわけです。ただ、聞く学生の側からすると、「おまえ牛の病気見たことないやん」ってなるわけですよね。
こうした教育とこの共同獣医の教育のどちらがいいかというのは自明のことだと思います。

遠隔講義システムは、対面式となんらかわりません

共同獣医学部というのは、大学は違えど同じ学部ですので、
授業・実習のカリキュラムは基本的に同じです
授業は、テレビを使ってリアルタイムで遠隔で実施しているものと、それぞれの大学で対面のみで実施しているものに分かれます。遠隔講義システムは、思ったよりいいシステムで、なんの不便もありません

最初は、対面ではなく授業するなんて、ダメなんだろうと思っていました。
が、実際にやってみると、そんなに違和感ありません。
違和感ないどころか、結構便利なシステムです。
講義をする僕ら側は、カメラをある程度意識して授業をしますが、
実際には、目の前の学生とテレビの向こうの学生に対してあまり違いを感じませんし、
カメラの向こうの学生を当てたりことも可能ですし(チョークをカメラの向こうに投げることはできません)、
お互いに話をすることも可能です。

コロナ禍で、今ではweb会議や授業などが当たり前になりましたが、
我々はこのシステムをもう10年近く前から実施しています

簡単に共同獣医の宣伝をしましたが、だいたい理解できてもらえるとうれしいです。
このように日本の獣医学の教育は少しずつ様々な面で、それぞれの大学が改善していく努力をしています。
こうしたことにも少しずつ触れていけるように考えています。