研究者にとって大事な『論文』とか『学会発表』について簡単に解説します
よく論文とか学会発表とかって耳にするけどいったいなんなの?
論文ってなに? ネットの情報となにが違うの?
学会って、耳にするけど、ただの会合なの?
こういった疑問に答えます
本記事の内容
1. 論文は、信頼ある新しい科学情報を発表する方法です
2. 学会は、同じ科学の分野の研究者が集まって議論する場です
3. ピアレビューされていないものは、信用できません
この記事を書いている僕ですが、
研究者として日々、論文および学会発表しています
原著英語論文は100報以上あります(レベルは気にしないてください)
またいろんな学術雑誌の編集委員もやっています
こういった僕が解説していきます。
1. 論文は、信頼ある新しい科学情報を発表する方法です
論文というのは、正確には学術論文のことです。
分野に限らず、研究者が新しい発見をした場合、それを世間に公表します。
その正式な方法が、学術論文を執筆し学術雑誌に掲載することです。
それは新聞でも一般の雑誌でも著書でもなく、研究者が目指すのは学術論文として発表することです。
そして通常は、英語論文です。
これは分野によって違うのかもしれませんが、世界中の人に知ってもらうためには英語である必要があります。
学術雑誌とは学術論文を載せるための媒体のことで、
いろんな出版社が様々なタイトルの雑誌を定期的に刊行しています。
定期的というのは、
Nature(有名な科学雑誌)のように週刊のものもあれば、月刊のもの、隔月のもの、など様々です。
学術雑誌と学術論文の関係のイメージとしては、漫画を思い浮かべるとわかりやすいと思います。
たとえば、ジャンプ、マガジン、スピリッツなどいろんな雑誌があるような感じです。
ただ少し違うのは、漫画雑誌の場合、出版社側から書き手にお願いしますが、
学術雑誌の場合は、我々研究者が自ら自分の選んだ雑誌に投稿し、それを出版社側が掲載するかどうかを決めます。
そこで掲載されることになった学術論文しか掲載されません。(どうやって決められるかは 3. で解説します)
学術雑誌には、生命科学系で有名なものとしては、Nature, Science, Cellという3大誌がありますが、
こうした全ての研究者があこがれるようなメジャーなものから
誰も名前を知らないような雑誌まで何千という雑誌が世の中には存在し、
それらのなかで自分の論文が適していると思う学術雑誌に、自分の論文を投稿します。
もちろん名の知れた雑誌に投稿して掲載されるほど価値は高くなりますし、
いろんな人に読んでもらえる可能性が高くなるわけです。
たとえばジャンプに載るのか、名の知れない同人誌に載るのかの違いのような感じです。
したがって研究者のアウトプットの一番の方法は、自分の発見したことを学術論文として学術雑誌に発表することなわけです。いいかえると、学術論文を発表していない場合、その研究者はなにをやっているのか評価できない、ということもできるほどです。
2. 学会は、同じ分野の科学の研究者が集まって議論する場です
学会は、同じ分野の研究者が集まって議論する場です。
学会というと、夜の懇親会の写真ばかり目につきますが(自分だけ?)、そんなことはありません。
学会とは、同じ分野の研究者らが一堂に会し、研究成果を発表したり、それについて議論する場です。
つまり自分の発見したことをそこで発表し、それについて他の人が意見をし、
またそれに対して自分の考えを述べる、そうすることで科学の発展に寄与する場です。
学会とは一口にいっても、それぞれのテーマにあった学会がめちゃくちゃたくさん存在します。
たとえば医学系の学会の開催リストがありますが、毎日のようにいろんな学会が開かれていますよね。
小さい学会は数百人規模から、大きい学会は1万人を超えるものまで様々です。
我々研究者は、もちろん全ての学会に参加するわけではないのですが、
だいたいそれぞれの研究者は少なくとも自分が関連すると考える複数の学会に所属していますので、
年に数回はこうした集まりに参加することになります。
したがって学会は、自分の研究内容に対して、他の人から意見をもらったりするのに加え、
いろんな人と会ったりすることで、新たな共同研究の場をみつけたりする場にもなります。
3. ピアレビューされていないものは、信用できません
研究者としてはこのように、学会で発表する、学術論文として公表する、という二つの大きな発表の場があるわけですが、より重要なのは学術論文として発表することです。
最初に書いたように、
学術論文をそれぞれの雑誌に掲載してもらうためには、編集者から「載っけてあげるよ」という許しを得る必要があります。その許しを得る過程が、レビューとよばれるプロセスです。
研究者は、自分の学術論文を掲載してほしいと思う学術雑誌を選んで送りますが、
雑誌社に送られた我々の論文は、まず各雑誌が独自に契約した編集委員(これは研究者)の手に渡ります。
編集委員は、その論文の内容に精通していると思われる一般の研究者を自分で選び、その研究者らに論文の評価をしてもらいます。その評価者をレビューワー(査読者)といいます。
だいたい各論文について、査読者2人(雑誌によっては1人、ひどいときは4人くらいになったりもする)がその論文を評価します。査読者は、その学術論文が科学的に正しい結論を導き出しているのかどうか、新しい発見について正しく記述されているのか、そうしたことについて評価を行います。そのことをピアレビューといいます。
(こうした編集委員、査読者はすべて基本的には研究者のボランティアであり、学術会を支えていくという気持ちのもとで成り立っている制度です)
だいたいまともな学術雑誌であれば無条件に論文を掲載してくれることはなく(最近はハゲタカジャーナルとよばれるお金さえ払えば論文を掲載してくれる雑誌がはびこっています)、この査読者に、追加実験を指示されたり、いろんな疑問点をぶつけられたり、さまざまな点でコメントをもらいます。このコメントに対して応答をする、といういったりきたりの作業が何回か続きます。
これをクリアできて初めて、その雑誌に掲載されるという許しがもらえます(これをアクセプトとよんでいます)。この作業は本当に消耗しますし、うまく査読者のリクエストに応えられないと掲載を許可されません(リジェクトとよびます)。
つまり学術雑誌に掲載される、ということは、自分の論文の分野に精通した専門家数人が科学的に正しく新しい発見であると評価した、ということを表しており、その論文の質が担保される、ということになります。
裏を返すと、ピアレビューされていない学術論文は、なんの質の保証もない、ということです。
つまり、よく「論文書いて雑誌に掲載されました」というなかには、ピアレビュー(査読)のない雑誌に掲載されたという場合があります。とくに日本語の商業誌などに多いですが、ピアレビューされるシステムがなく掲載されるものがたくさんあります。たとえば専門家として雑誌社から原稿を頼まれる場合もそれに含まれるわけですが、それはピアレビューされた論文とは区別して考える必要があります。つまり好き勝手書いても誰にも咎められないので、科学的に正しいという保証はありません(ちなみに僕もそういう原稿頼まれたりします)。したがって論文であればすべて同じであるという風に考えずに、読む側がそういうことを意識して読まないといけないわけです。
こうしたことから我々研究者が、自分の論文目録(業績)をだしたりするときには、それぞれの論文できちんとぴあレビューされた学術論文には『査読あり』という一言を加えるときがありますが、これが非常に重要な意味がわかっていただけると思います。