大学教員ってどういう仕事なの? 自由人ではありません。
先日、「乞食と大学教授は3日やったらやめられない職業か」という記事を書きましたが、
今回は、実際に大学教員はどういう仕事をしているのかについて解説します。
私は現在、国立大学法人の山口大学の獣医学部の教授で、
教員暦としては15年、そのうち教授暦が9年になります。
そのため自分の分野については、大学教員としていろいろ経験していると思いますので、
実際の生の話をお伝えできると思います。
細かいことは文系と理系でも違いますし、
理系のなかでも学部によって異なるところはありますが、
だいたいニュアンスはわかっていただけると思います。
目次
- 大学教員は意外にいろんな仕事をやっています
- 大学教員が好きなことだけやっていると思ったら間違いです
- 独立して自分のやりたい研究をしたいのであれば、大学教員はやっぱりいい職業です
1. 大学教員は意外にいろんな仕事をやっています
僕も自分が教員になる前までは、大学の先生は好きなことだけやっていていいな、と思っていました。
でも意外にみえないところでやることがいろいろあるのです。
仕事はおもに、教育、研究、臨床(関係ある人だけ)、運営、社会活動から成り立ります。
教育
学生への授業と実習です。
これらは主に準備の時間と実際に講義や実習をする時間に分けられますが、
準備の方は1度作ってしまえば、基本的には毎年使い回しできますので、
毎年少しずつアップデートはしますが、それほど負担にはなりません。
ただ人前で話すのが好きじゃないと、嫌な仕事かもしれませんね。
準備ということでいうと、
私も一番最初に赴任したときは、
ほぼ1年中の実習と、講義も1.5hr x 30くらいの準備があり、
前任者のスライドなどなにもなかったので、
すべて自分でスライドなどを一から作るのが、かなりつらかったです。
たぶん1年で1000枚以上スライド作ったはずです。
研究
理系の場合は、自分もしくは学生が手を動かす実験がありますし、
またそのために論文を読んだり、書いたりする時間があります。
さらに研究室のなかで、学生とゼミを実施したりする時間(教育にも入るが)もここに入ります。
多くの大学教員はこれらに一番時間を割きたいと思っています。
が、この部分は、自分で好きなように時間をずらしたりすることができるので、
実際のところは、優先順位がうしろにいってしまい、
他の業務の空いた時間に実施せざるをえないということになります。
臨床
これは医学部でも獣医でも同じですが、
臨床系教員という、診療を担当する教員の場合には、これに割く時間が結構多いです。
僕の場合は、今はだいぶ免除してもらっていて週に2日ですので、
そこまで大きな負担にはなっていませんが、
やはり病気の子を相手にするので、突然夜中までのびたり、
土日がこれのために突然つぶれたりすることもあります。
人によってはここに大部分を割いている教員もいます。
が、驚くことなかれ、他の教員と給料は全くかわりません(これ以外に知られていない)。
運営
これがあまり一般的に見えない仕事です。
単純にいうと、大学の運営に関する会議とその準備やその宿題に割く時間です。
大学には、驚くほどいろんな委員が存在します。
国立大学が2004年に法人化されてから、より大学の自治が重要視され、
さらに文科省によって様々な評価基準が大学ごとに用いられるようになった結果、
大学内の様々な運営に対して委員を用意しなくてはならなくなり、
そのための書類作りや会議などが半端なくやってきます。
たとえば一例をあげてみると、
入試委員、学務委員、広報委員、図書委員、などなど数えきれません。
ですので、一人でいくつも兼任することになります。
さらにこれら委員は身分があがればあがるほど増えます。
さらに学部長、学科長などの運営側に入ると、その分手当がもらえますが、
会議とその準備に割く時間は半端じゃないです。
去年まで2年間学科長をやっていましたが、会議の数は、月に20は軽く超えていました。
お金いらないのでやりたくない、というのが私の率直な感想です。(怒られるか。)
社会活動
社会活動というと、
自分がやっている研究などのに関連する学会の仕事
同業者や一般の飼い主さんに対する講演活動なども含め、啓蒙活動や宣伝活動なども入ります。
ほかには、国などの専門的な会議などの仕事もあったりします。
このなかで学会の仕事などは、ほぼボランティアですが、
各研究者のボランティア行動のもとに成り立っているところがあるので、
普通はみなさん積極的に仕事されます。
2. 大学教員が好きなことだけやっていると思ったら間違いです
大学教員になりたいと思って大学教員になった人のほとんどは、
自分のしたい研究を続けたいから、というのが一番多い理由だと思います。
もちろんなによりも教育が好き! という人もいるかもしれませんが、
おそらく小中高の先生とくらべると、純粋にそういう気持ちの人は多くないと思います。
ご存知かもしれませんが、大学の先生になるのに、
教職免許が必要ないわけですので、我々は教育のプロでもないわけです。
もちろん大学入学時によちよちだった学生が、
卒業時に立派になって育っていくのをみるのはいいものですが、
人に教えるのが大好きということだけで大学教員になる人は一部だと思います。
また運営や社会活動などを好きな大学教員は少数派で、
このあたりをやりたいと思ってやっている人は少なくて、
できればそういう仕事から逃げたいと誰もが思っています。
ただ会社でもどこでも組織があれば、
そのための運営の仕事のがあるのは当たり前なのでしょうがないですが、僕も全く好きになれません。
大学教員は好きなことだけやっていられるような社会不適合者の集まりのようなことをいわれることもありますが、
実際にはそうでもないのです。
また研究者というと、一般的にはバックトゥザフューチャーのドクみたいに
一人で実験室で閉じこもって頭ボサボサで怪しいことやっている、というのを思う浮かべるかもしれません。
これも今は違います。
少なくとも生命科学系の研究では、以前より一人でちびちび研究するというより、大きな研究をすることが多くなり、
様々な方との共同研究で成り立つことが増えているため、社会性まで必要な状況になってきています。
3. 独立して自分のやりたい研究をしたいのであれば、大学教員はやっぱりいい職業です
以上のような、やりたくないことが多々ある中で、なぜ大学教員をやっているのか。
単純に、やりたいことの方がやりたくないことより大きいからですね。
世の中で、自分のやっている仕事のすべてを気に入っているということはなかなかないですよね。
ですから単純に引き算して、やりたいことの方が大きければそれがいい、ということなのだと思います。
私は、企業で研究者をやったことがないのでなんともいえないですが、
大学は自分で研究費をとってくる限りは、自分のやりたい研究を続けることができます。
とくに研究室の主宰者(通常は教授)になれば、これはやっちゃだめ、という研究はなくなります。
先述したように、
またこういう記事がたくさんあるように、
以前と比較して自分の研究に避ける時間は年々減っていっているのが事実です。
多くの大学教員は、教育、運営、社会活動に裂かれる時間が増えれば増えるほど、
自分の研究時間を削るのではなく、
自分の生活の時間を削って研究時間にあてているのだと思います。
そういう風にいうと、そんな職業にはつきたくないという学生さんもたくさんいるかもしれませんが、
一方で、それくらい打ち込めるような職業であると感じるからこそ、
一部の人間にとって、大学教員はまあまあいい職業なんだとも思います。