抗イヌPD-1イヌ化抗体の臨床試験についてまとめました

・うちのイヌががんになってしまった
・もうできる治療はないといわれた
・なんか新しい治療法ないかなぁ

こういった方はぜひ読んでください

本記事の内容

我々の研究室で実施している抗PD-1イヌ化抗体の臨床試験についてまとめます

この記事については、すでに10月に我々の研究室から論文報告した内容を補うものです。
2020年11月26日にYahoo Japanさんにとりあげていただいてから、日本全国多くの方からお問い合わせいただいているので、その際によくうけるご質問なども含めて書いてみます。

1. 抗イヌPD-1イヌ化抗体とはなにか?

まず今回の臨床試験のことの前に、イヌのがん治療のこと、がん免疫療法のことなどについてご理解いただきたいと思います。
ちょっとご面倒かもしれませんが、ざっと読んでみてください。

犬のがんに対する免疫療法についての解説 パート1

犬のがんに対する免疫療法についての解説 パート2

犬のがん(とくにメラノーマ)に今のところ一番効果がある免疫療法はこれだ!(飼い主さん向け)

その上で、今回の臨床試験の話をしようと思います。

2. 実際、臨床試験を受けたい場合、どうしたらいいの?

先日、Yahoo Japanさんで取り上げていただいた後に、以下のようにtwitterでだいたいのことを連続ツイートしましたが、より補う形で、以下に一つ一つ記しておきます。

世界初のイヌ用の抗PD-1抗体の臨床試験の報告

まず今回の試験で使っているのはイヌ用に開発した抗PD-1抗体です。
いろいろ報道の書き方に語弊があり、間違って伝わっているところもあるのですが、
イヌ用の抗PD-1抗体の臨床試験は我々のものが世界初です。

一方で抗PD-1抗体の親戚みたいな薬剤であるイヌ用抗PD-L1抗体の方は
北海道大の今内先生のグループがうちより先にすでに3年ほど前に臨床試験のデータを出されています。
抗PD-1抗体と抗PD-L1抗体を合わせて免疫チェックポイント分子阻害抗体といいますが、そういう括りでは、世界初は北海道大学のグループであって我々ではありません。

どちらのものがいいかは、人の同様の薬でもまだわからないくらいなので、犬ではサッパリわかりません。
同じくらいの効果かもしれませんし、どちらかの方がいいのかもしれません。今後徐々にわかってくるものだと思います。

ただこうした治療薬のどちらがいい、という比較をするためには、同じがんをもった同じステージの何百頭というイヌを集めて、2つの治療法を同じ条件で試験を実施して、その上でどっちがよかったという比較をしないといけないので、相当な年月がないと実際にはわかないと思います。

獣医師主導臨床試験とは

今回の試験は、獣医師主導臨床試験であり、製薬会社主導の治験とは異なります。

製薬会社主導の治験とは、製薬会社が新しい薬を販売する前に、その効果検証のために複数の病院で治療を行いますが、それは農林水産省に届け出をした決まったプロトコールで決まった条件にあてはまる動物に対して投与して、その上で効果があるかどうかの判定を行います。

それに対して獣医師主導臨床試験(研究)とは、獣医師が自ら作製または調整した新しい薬を、自分の病院に来られる動物に対して自ら使用することをいいます。そのため、この薬を、他の病院に渡したり、販売することは薬事法違反となります。

上記のような状況ですので、どこの病院でもできるわけではありません。原則山口大にお越しいただく必要があります。ただし私が関与している他の病院が少しありますので、それにつきましてはまでお問い合わせください(携帯メールからお問い合わせ頂く場合は、コンピューターのメールを受け取れる設定にしてください)。

もちろん上記のように北海道大は独自のものをお持ちなので、そちらにお問い合わせいただいてもいいと思います。

イヌ用の抗PD-1抗体の臨床試験の概要

参加できるかどうか

臨床試験に組み入れられるかどうかは、メールなどで判断するのは難しく、実際に診察させていただいた上で判断させていただいております(がんの種類やステージなどの状況の把握が必要です)。

臨床試験の前に、腫瘍の確定診断がついている、もしくはつける必要がございます。

現在我々のところでは、対象とする腫瘍の種類については、とくに制限はしておりません。しかし、この薬剤の効果のメカニズムから効果の可能性が低いものについては、参加をあまりおすすめ致しません。

これまでにメラノーマ(悪性黒色腫)というがんに対して主に実施してきましたので、それについては報道の通りで、現状40例以上実施してきていますが、他の種類のがんについてはまだまだ経験が少なく、どの程度の効果がみられるかまったくわからない状況です。

一般的には、どういう状況でも適応できるわけではなく、標準的な治療や効果のありそうな一般的な治療法がある場合は、それを受けるべきで、それらをやらずに臨床試験に参加することはできません。あくまでも臨床試験は、試験的な治療法ですので、標準的な治療法のほうがいいことも多々あると

臨床試験ですので、治療効果があったかどうかを判断する必要があります。したがって何らかの形で計測可能な腫瘍が体に残っていることが必要です。したがって、体のなかに腫瘍がもうない、という状況で臨床試験に入ることはできません。

実際の方法と費用

臨床試験自体は、2週間おきに5回投与で、5回投与2週間後に、効果があったかどうかを判断します。効果がありそうな場合は、その後治療を続けるも可能です。

費用についてですが、現在の臨床試験では薬剤のお金はいただいておりません。我々が実施していることは、効果判定のための臨床試験であり、効果があるかどうかわからないものにお金をいただけないからです。
頂きたいのは、検査などに必要な費用と投薬する際の点滴料、それ以外に付随するような費用です。
人のオプジーボは価格が高いことで有名になりましたが、先に人の方の価格を見てぶったまげないでください。

副作用は、全くないとはいえません
よく怪しいがんの治療の広告などで副作用のないいい治療とうたっているものがありますが、
副作用がなくて効果のある治療なんてほぼほぼ存在しません。そんなものあれば誰でもそれを実施します。
この治療も副作用がないとはいえませんし、副作用が出る可能性はもちろんあります。
体の免疫活性をあげるのが目的ですので、それに伴う副作用が出る可能性を考える必要があります。
ただ一般的に抗がん剤で見られる副作用ほどではないと考えていいと思っています。

効果について

効果については、上記のとおりですが、過大な期待はされないほうがいいと思います。

人でもオプジーボが出た時に、「夢の治療」と騒がれましたが、現状がん患者さんでも効果が認められる方はいろんながんで平均して20-30%程度です。ただ半分以上の患者さんに効果がみられるがんもあれば、全く効果がみられない種類のがんもありますので、結構幅があります。

ここにたどり着く方は、手立てがなくなった飼い主様が多いと思いますので、ご期待される気持ちは痛いほどよくわかりますが、我々のところでもメラノーマ以外のがんにどの程度の効果があるかは全くありませんし、
それを現在実施している臨床試験で確認していくという段階です。
ただ一方で、これまでの治療法で手がない子でも一部の子に対してですが、効くことがあるのは間違いないようです。

この臨床試験の目指すもの

この抗PD-1抗体や抗PD-L1抗体を用いたがんの治療は、
人では一般的に使われるようになりましたが、小動物の医療では市販されている薬は世界的にも存在しません

我々が目標とするのは、早くこの薬の承認をとって、日本の多くのがんで苦しむ犬たちに使用できる体制を整えることです。今の獣医師主導臨床試験は、上記のように限られた施設でしかその恩恵を被ることができる動物がいないため、市販されることによって、多くの方が用いることができるようになります。この現在の獣医師主導臨床試験がすすめばすすむほど、農水省主導の治験を早く開始できる可能性があるため、実際の承認も早くなる可能性があります。

本臨床試験は、こうした目的のもと実施しているということ、そのことを御理解の上、
対象となりうる困っていらっしゃるがんの犬の飼い主様はぜひご連絡 (mizutaku@yamaguchi-u.ac.jp 水野)いただければと思います。